また会う日まで


 タイトルのまた会う日まで、は実はまた会った日から、と読み替えるべきなんじゃないかと考えていたが、最後まで読んでまた会う日までというタイトルがきれいに当てはまることに気づいた。きれいに、はややお世辞かもしれないが、短期間の上京小説として素直に読めば、最後に繰り出されるであろう言葉はこうであってもおかしくはない。それは移動を多く経験する柴崎の書くキャラクターらしいし、関西と東京という二つの局面をパラレルに記述する現在のスタイルに通じるところが多くある。

 主人公の仁藤有麻が高校時代のクラスメイトだった鳴海くんに会いに行く、という非常にシンプルな筋書きの中に、柴崎はさまざまなキャラクターと場所を介在させる。鳴海くんに会うだけなら、鳴海くん以外のキャラクターはさほど重要な意味を持たないかのように、少なくとも有麻にとっては思える。しかし、有麻はまず東京の人間ではないということが一点と、東京に来たからといって鳴海くんにすんなり会いに行けるわけでも会いに行くわけでもないというのがもう一点。かといって複線的な物語というわけではなく、重要なには鳴海くんに会って、かつての修学旅行でのあるヒトコマを確認することにある、という点は変わらない。

 柴崎が本作で様々なキャラクターを登場させる目的はいくつかあるだろうが、まず言えるのは有麻を導くなんらかの役割をキャラクターたちは(結果的に)果たしている、あるいは果たそうとしているということだ。だから東京ではストレンジャーであり、観光客でもある有麻の視点は、三人称でつづられる他の誰とも異なる。冒頭は地下鉄の移動で始まるが、駅を出るだけの描写がやたらに長い。長いのはつまり、有麻の目についてしまうということで、大阪とは違うということや、前に来たときとは違うということ、あるいは素朴に駅の中で気づいたこと(工事の様子とか)が有麻の視点の移動で記述されていくことに、彼女がストレンジャーであることを読者は冒頭から気づく構図になっている。

 有麻が出会うキャラクターを整理してみると、元同僚で役者を目指している李花、最初に東京で会ったしょうちゃん、鳴海くんを健全にストーキングしている大学院生の凪子、そしてはとバスツアーで通訳を引き受けることになったマルコあたりが主だったところだが、関係性がはっきりと元からあったのは李花だけ。その李花も、有麻の理解者というほどではない。けれど、その李花が面白いことを言うのは、以前から関係があったからだ。

「わたしは有麻ちゃんのそういうとこ、いいと思ってるよ。周りのこと、ちゃんと見てるってことだもん。みんながあの帰っちゃった子みたいだったら仕事もできないち友だちになるのも難しい気がする」
(中略)
「ずっと前に、写真もそんなこと言ってなかった? 周りをよく見てないと、いい写真は撮れないって」
 (河出文庫版、pp.153-154)

                                               
 李花の言う帰っちゃった子とは凪子のことで、有麻は鳴海くん関係で彼女とコミュニケーションをとろうとするものの彼女の身勝手さだけが目立つように柴崎は書いている。だからこそ、「周りをよく見て」いる有麻のキャラクター(つまり、様々な視点を持つ一人称の「わたし」)が効果的に演出される。ただ、ここまで具体的にキャラクターに「わたし」の役割を指摘させるのは少し意外でもあって、こういう風に李花に語らせるということは、柴崎自身がこういうふうに「わたし」を書いていますよと言わせているようなものだ。
 
 同時に、カメラを携えながら東京をめぐる有麻という固有のキャラクターを説明している。ストレンジャーであり観光客である有麻は、自分は東京にいる他の人とは違っていて、その違う視線、異なる視点でいろんなものをカメラに収めてきているのだ、ということも、読者にはこの時点では十分伝わる。解題と言えなくないような会話が、この短い中に極端に凝縮されている。

 この物語は鳴海くんに会うことが第一の目的で、それはまず果たされた。そして過去のやりとりについてもう一度話すことも、終盤でなんとかなされる。かといって、ほんとうにそれだけが有麻にとっての東京滞在における重要な、意味のあるやりとりだったかというと、おそらくそうではない。というのが、このラストの生んだ意外な、そしてもっとも距離のあると思われるキャラクターとのある約束に見ることができる。

 「また会う日まで」は、おそらくまたそう遠くないうちに鳴海くんと再会することを、十分に予感させる。そして、おそらく鳴海くん以外の誰かとも、「また会う日まで」が約束されている可能性は高い。今回は、ここ「まで」で、次ぎは「また」いつか。それだけと言えば、たったそれだけの、ごくありふれているようでありふれてない、いくつかの出会いのお話。


2015/2/22

長編

初版
2007/1(河出書房新社)
2010/10(河出文庫)

【Information】
河出書房新社(公式) amazon(kindle)

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