或る記憶


どこが一番好きだったのかと尋ねられたら
私はすぐにこう答えておりました

『煙草を嗜むときの後姿』

うしろすがた
艶姿


彼の襟足はいつでもまばら
首にかかるかかかりはしないか

そんな御髪をことりと揺らし
いつも私を振り返る
くゆる煙と一重のまなこ
私に向けてふわりと開く笑い顔


―いつでも私は敗者でした
彼は常に勝者でしたので―


最初から勝つ気などございません
彼の黒い目に射抜かれることが
私にとっての幸せでしたので



―正直に打ち明けますと


私が正々堂々と「愛しい」をこめた眼差しで
彼を見つめることができたのは

その後ろ姿だけでございました


そうでもないと
彼にすぐに射抜かれてしまっていましたもの




うしろすがた
あですがた




本当は真正面から
あなたの胸に包まれたかった


Writer's Comment

こういう文体、実はすごく好きです
ノスタルジックな感じで


2007/4/16

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