落下桜
私のことを覚えているならば
あの約束も覚えているでしょうか
『桜舞う季節が来たら、必ずどこかへ連れ出すよ。』
あの冷たい丘で誓ったことを
あの頃私は圧倒的な
何か見えない力で苦しめられて
体を刻んで正気を保ち
夢見ることを恐れておりました
あなたは木枯らしのように舞い降りて
私をきつく抱き締めました
はがいじめにされながら私は笑いました
あの日あなたは
倍音の声で言ったのです
『二人でどこかに逃げましょう。』
『春までに荷物をまとめなさいな。私はあの木の元にいますから。』
ああ、私はあれから春を何度も重ね
たゆたう黒髪も
今は白くなりました
何度目の春がめぐるのでしょうか
はらりはらり
桜は今年も満開です
はらりはらり
今もかわらず愛しき君よ