スプライト・シュピーゲル U Seven Angel Coming


 スプライトの2巻である。 1巻よりは冲方丁が本作、本シリーズでやろうとしていることがだいぶはっきりしている。明確な答えがあるわけではないだろうけど、本作がライトノベルレーベルで出された理由も読んでいればなんとなく分かるし(良くも悪くも軽い部分は目につく)複雑な世界観ですら物語の基盤以上でも以下でもないんじゃないかな、というのが素直な感想。

 比べてみればマルドゥックシリーズのほうがはるかに重厚に作られているし、キャラ個人の描き方が細かい。本作はマルドゥックシリーズを読んだ読者も楽しめるとは思うが、前述した意味ではやや物足りなさも感じるかもしれない。ただ、そのあたりはあくまで本シリーズのスタンスが示された上での、しかも2巻の段階で思うことなので、それほど重要でもないかもしれないけど。少なくともマルドゥックシリーズは楽に一気読みできるシリーズではなかったよな、とか。両シリーズとも迫力と展開で一気に読ませてくれる部分はあるが、一気読みに要するエネルギーが違いすぎる。

 2巻はミリオポリスにおける超巨大タワー、ヴィエナ・タワーをめぐる攻防戦。背景として浮かび上がるテロ組織、七人の天使とはなんぞや。民族と宗教がからみあい国家というレベルで複雑な政治性を描き出し、原子炉と核という扱いきれない爆弾をめぐる争い。なんていうのは現実の世界でも水面下では起きていてもおかしくないな、という既視感すら覚える。それも作家のねらいであり、かつ既視感を軽々と飛び越える3人の妖精たちを描ききることが物語としてはより未来的であるということだろう。1巻では目立たなかったMSSの他メンバー、ニナやバロウ神父の活躍もあるよ!というのが商業的な面白み、かな。実線ではオペレーターであるニナは目立たないが彼女の存在が地味ながらも物理的に、あと精神的に3人の妖精たちの支えになっているようにも思えた。ストイックなところが妖精たちと対比して逆に目立ってるようにも。

 1巻よりははるかに分量が増えているのがまず印象的。1巻がいかに前座であったかが分かるとともに、必要以上に記述しないんじゃないか、という杞憂はひとまず薄れた。それでも展開の重たさや速さに比べれば軽いものだと思うし(良くも悪くも。良い意味では3人の妖精の戦闘がいかにスピーディーでリズミカルかを演出できている)軽いからと言ってあっさり読んでしまっては細部のこだわりを見失いかねないので惜しいとも言える。なぜ石川啄木が出てくるのか、とか。なぜモリサンはカタナで戦うのか、とか。

 そういった背後の部分に関してはあまり多く語られず、皮肉のような引き出し(財政再建のために福祉予算を大幅にカット、などは現実的にすぎるだろう)や隠喩はいずれも深く考えることを必ずしも要求していない。このねらいに関しては、あとがきで「どんな話題も、ある人物に関係した側面しか書いておりません。あくまで物事の一つの側面です」とはっきり見せかけであると述べている。

 同時に、シリーズ全体を見渡せるのは読者だけ、だとも。ストーリーは一見深みを増して前進しているように見えるが、実はそうじゃないのかもしれない。あくまでも「全貌への視点を真っ先に読者にもたらす。ただそれだけのために身を尽くす」という言葉にあるように、延々と何かが投げられているだけである、と解釈できるだろう。何かが起こっているようで何もない、意味づけなどそもそも人によって違うのだから作者が意味づけをする意味がそもそもない、と解釈することもできなくはない。

 テロ組織との核をめぐる闘争は某国と某国の戦い(直接的には表面的な、間接的にはより水面下の)を容易に想起させるし、日常感覚で語られる正義とは当たり前のようにかけ離れている。それだけなんだよ、と言わんばかりにモリサンやハインツと言った人物が登場する。そういえばいつからテロが戦争になったんだけ、と考えるのが自然なくらいだろう。リヒャルト・トラクルという人物を大きくとらえるか小さくとらえるか、そもそもそういう区分など必要なく、ただ一つの事件の主犯としてとらえるべきなのか。ストーリーが展開されるにつれて考えるのは彼らの存在理由で、同時に戦いを続ける3人の妖精たちも1巻から比べれば存在理由の追及に関しては饒舌になっているように思う。ここはかなり面白い。表面的な軽さが、ただ言動が軽いだけのこととはとらえられないようにも思えるからだ。

 饒舌になり、チームとしての位置づけも見えてきた3人の妖精たちがどのように舞い、語るのかが思いの外面白くなってきたところで2巻は終わる。どう、繋げていくのかな?また、どのような引き出しが今後ストーリーの素材として組み込まれてくるのかも楽しみにしつつ、見届けていきたいと思う。


2010/10/30

シリーズ物長編/シュピーゲルシリーズ、スプライトシリーズ

初版
2007/7(富士見ファンタジア文庫)

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