照柿


 中盤からようやく深いドラマなのだなあ、と思わされた。ストーリー性はほとんどない気がした。でもここに小説として存在する。言えば異色かもしれない。
 
 駅のホームで男と女が絡み合い、一人の女が線路に転落。それを見た合田雄一郎は逃げた男を追いかけた。もう一人いた女を見ていた野田達夫は、久しぶりに見る自分の昔の恋人佐野美保子だった。合田と達夫は20年ぶりの再会を果たし、ここから達夫と美保子を中心とした人間ドラマが始まる。そして、出くわせてしまった合田も。
 
 もう大分メジャーになった合田雄一郎シリーズ第2弾。この読み物に筋はあるのだろうか。淡々と2人の男女に焦点を合わせるだけ。その日々を順を追って綴られている。日記とも言えなくない。合田は別の事件で2人の被疑者を見極めていた。そのときに遭遇した3人。相変わらずのディティールで乃南アサ以上に酷な心理描写。それに前半つまずいた。しかし中盤から面白さを知ってからは一気に読めた。浅いかと思っていたんだが深い人間ドラマなのだ、と。その面白さに作家はなかなか気付かせてくれないのが憎い。
 
 美保子は美保子で、ホームにいた夫の敏明を女性関係で憎んでいた。達夫は仕方なく結婚した今の妻より確実に美保子を愛してしまった。そして6年前に離婚を経験した合田さえもが。愛することとは果たして罪なのだろうか。どこまでが罪なのだろうか。問いかけのように思えた。書きたかったのはその罪と、愛したことの罰なのだろうか。この罰はあまりに痛くないか。このテーマを出すために長々と読んできた。十分面白いと思った。前作と比較は出来ないがこれは面白い。
 
 タイトルの照柿は、達夫が工場で熟処理をしているときの色である。子どもの頃の図工の時間に書きたくて書けなかった色。そして、壮絶なラストで垣間見た故郷大阪での色。切なすぎた。


2004/4/14

長編

初版発行
1994/7(講談社)
2006/8(講談社文庫 上・下)

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