火の粉


 これは展開に嵌るとなかなか面白い小説だ。『虚貌』でも終盤魅せた一気に読ませると言った作家らしい書き方がここでも上手に発揮されている十も思う。タイトルもナイスだ。

 元裁判長の梶間勲。勲が死刑かと思われた一家3人殺害事件の被告武内を無罪とした。そしてその2年後の現在。隣の空いた土地に引っ越してきたのは2年前に無罪判決を下した武内。何を思いわざわざ裁判長の隣に越してきたのか。そして武内の存在が梶間家に与える影響は。勲達一家は火の粉を振り払うことが出来るか。

 うん。なかなか面白い題材だと思うがこれをどのように小説化していくかが作家の見せ所になってくるが。「虚貌」で福井晴敏から賛美を受けていたが並の作家じゃない、というのは容認済み。その中で読んだ本作。「虚貌」のような意外性はないもののスリリングな展開はストーリーを大いに盛り上げてくれる。

 何が起きて、誰がどうだったかじゃない。これから何が起こるのか、という不安に問われることになる。その点で注意すべきは当然武内動向。それと意図だろう。何を思ったのか。

 前述した「虚貌」でもそうだが更にスピーディーであり中盤からは一気に読ませてくれる。なかなかこう、家族がいる中で登場人物をそれぞれ創り上げて更に展開をそれで盛り上げよう、というのは難しい気がするのだが。妻や息子の嫁の視点から見る武内の存在。そして事件の遺族は。

 ラストは大方は見え透いているのだが。それでも終盤のゾクっとする感じは耐え難い。それに加え恐怖感も襲いかかる。本作を書くのはやはり容易じゃないだろう。勲にしても誰にしても武内の性格と存在の意味を見分けなければならない。それが叙述でゆっくり分かってくるだけに手が止まらなくなる。

 最新作「犯人に告ぐ」は福井晴敏、横山秀夫。そして途中が気になって風呂で読んだという伊坂幸太郎に絶賛されている。これもまた面白く、より雫井脩介という存在が大きくなったものだと思う。読んでいないがそのうち読めるといいな。如何せん双葉社なので文庫化されると探すのが大変だからなあw


2004/7/31

長編

初版発行
2003/1(幻冬舎)
2003/7(幻冬舎スタンダード)
2004/8(幻冬舎文庫)

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