虚貌


 文庫で上下とあるが上巻ではまだまだ先が読めない。読めないというのは、展開がこれからどの方向へ向かっていくのか。動機やトリックを含め全く分からない。そういう小説だ。

 第一章が語る某社長一家放火殺人事件。そして21年後、仲間に騙されて主犯に仕立て上げられた荒勝明が出所した。それから起きる殺人事件。その被害者は放火事件の加害者だった。現場に残された荒の指紋が意味するものとは。放火事件の時に関わり、荒の主犯説を訴えてきた滝沢刑事が、未練を果たすべく病気がちながらも捜査に加わった。

 大いにミステリーとしても楽しめるが、滝沢の刑事としての最後の意地や、これも加害者だった湯本と、滝沢の娘である朱音を巻き込んだ人間ドラマでもある。一つのことに徹底せずテンポよくシナリオが繰り広げられ、読者はただただ唖然とさせられる。読んでいて飽きない小説とはこのことだろう。 滝沢の意地とプライドをかけたストーリーでもある。刑事だからこそやりきれないことが多すぎる。だからこそ今度こそは、という熱い思いが伝わってくる。それと、滝沢の娘朱音と、同じく加害者だった湯本を巻き込んだ人間ドラマなのである。人間の負の部分が思いっきりでているような気がして面白い。

 加害者だけでなく、被害者にもまだ生き残りがいるというのがキーポイント。それに、荒と出所後関わった人物の謎。それに加え読めない展開が更に盛り上げてくれる。事件のトリックについてだがかなりの趣向を凝らしていると言っていい。これはやや反則ではないのか、と思われたし、ラストは驚きを隠せない。強引かもしれないが、とんでもない結末が読者を待っているのである。ある程度予想通りとは言え、強烈なイメージは隠せない。

 雫井脩介は初めて読むが、上下巻購入してよかったと思われる。文庫版で購入を迷われている方は、下巻に福井晴敏が解説を載せているのでそちらを見ていただきたい。これも必見かな。俺は否応なくお薦めしたい。


2004/2/8

長編

初版発行
2001/9(幻冬舎)
2003/4(幻冬舎文庫)

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