取引


 これは面白いなあ、とまず思った。『ホワイトアウト』のような面白さとはまた違ったものが。東野圭吾の『天空の蜂』を読んだ殆どすぐあとだからそんな感覚なのかも知れない。
 
 主人公で公正取引委員会審査官の伊田はODAプロジェクトの談合事件に高校時代の友人が絡んでいることで単身フィリピンはマニラへ。公取を追われた立場でもある伊田に、鬱的な再会とそこで起きる事件は自分と関係があるのか。

 ストーリーは長いんだが。なんとなくすぐ読んだ気がしてならない。そういうのは真保裕一のある種見せ所。ホワイトアウトでも同じような感想だし、天空の蜂でも一緒。取引で伊田は何を演じたのだろうかと言えば、何かとピエロ的なイメージしかないかな。踊らされる中で複雑に噛み合ってくるいくつかの事件と疑問。関わるべきでない人物、偶然とは言えない一致。衝撃というか驚愕でしかないのではないか。伊田はその為にフィリピンに来たのかというと、若干気が引けもした。

 巻き返しはどこにあったかというと、友人の娘クリスだろう。クリスが誘拐されることで取り戻しにも行くわけだがフィリピンやその周辺の風俗的事情がよく書けているなあ。真保裕一曰く調べるのが面白い、と文庫解説で某氏が書いているがその量と質の良さは読者共々確認済み。それが本作で発揮したものは、より引き込めるプラス面とリアル性が一般読者の引きを買わないこともないと言うことか。若干ではあるが後者にもなった。でもこのリアリティはいただいておきたい。

 取引、というタイトルチューンも色んな意味があってつけられたのかもしれないな。単純に職業柄だけじゃないと言うことは読めばする分かるし、それ以上のものもあるような気がした。

 個人的に本作は気に入っている。個性と言うよりはユニークなキャラクターもいい。主人公はストイックだがそこがミスマッチの妙なのかなんなのか。真保裕一ファンには素直にお薦めできると思っている。


2004/5/31

長編

1992/9(講談社)
1995/11(講談社文庫)

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