週末カミング


柴崎友香のもうひとつの集大成としての一冊

 タイトルを日本語にすると「週末がやってくる」とでもなるだろうか。sasakure.UKさんの作った「しゅうまつがやってくる」というボカロの楽曲があって、このひらがなで書かれた「しゅうまつ」は週末であるのはもちろん、終末をも指しているわけだけれど、本作に限ってはおそらく純粋に週末の話、として読めばいいのだろうと思う。(*1) ただ、「しゅうまつがやってくる」の歌詞にあるように、週末に「わたし」がいても「あなた」がやってくるとは限らないし、週末が終われば平日がやってくるというのもカレンダー的なイメージでしかない。ある日突然切断があってもおかしくはない(そういえば3.11は金曜日だったから、あの週末が文字通り終末めいた光景に変容した例とも言える)だろう。

 それはそれとして、繰り返しになるが本作は週末のお話である。2006年〜2012年までにいくつかの誌面で掲載された8つの短編が収められている。それぞれにつながりや連続性があるわけではないが、ではまったくないのか、と言われるとそうでもない。というようなことをあとがきで柴崎友香は書いているので、引用してみよう。(*2)

 いちばん時間の経っている「蛙王子とハリウッド」から、数ヶ月前に書いた「ここからは遠い場所」まで、「週末」という共通点以外は、つながりを設定していたわけではないのですが、通して読むと、ある小説のすみっこが、別の小説の中に通じているように感じるところを、あちこちに見つけました。
 わたしの小説はどれもそうなのですが、小説を書いたり読んだりする現実のわたしたちと同じ街にいる誰かの話と思って書いているので、ある小説に出てきた人物が別の小説の誰かと知り合うと言うことも、現実と同じように起こるんだろうな、と思います。「世間って、狭いよね」みたいな感じで。
 一度書いた人物がその後も暮らしていて、今頃どうしてるかなーと、頭の片隅で思うこともあるから、小説同士がつながっていくのかもしれません。


 この数センテンスのなかだけでも、いくつか指摘したいことがある。つながりは基本的にはない。しかし、「通じているよう」でもあるし、「つながっていくのかもしれません」という側面は否定されない。それは「現実のわたしたちと同じ街」と明示しているように、リアルさを担保しているからだ、とも言える。リアルの生活でも、そうではないはずだったのにある場所から突然つながりができたりもするし、全然別の人や事が通じている、ということもある。

 リアルさのもうひとつの側面は、大阪を主に関西地方、そして東京という柴崎自身にとってなじみのある街を書いていることにもある。ただ書いているだけではなく、彼女の場合は一人称のカメラアイが特徴的で、この目の動きは街にあるあらゆるものや行為を描写、記述していく。住んだことや行ったことがなくてもある程度調べれば(それこそ、グーグルマップのストリートビューなどを使えば)書けなくもないかもしれない。実際関西や東京という大都市圏だとそれが可能だ。ただ、あまりにもなじみのない場所や、データや情報のない場所ではそうはいかない。

 その点では、ある意味ではワンパターンで単調とも言えるやり方を、柴崎はずっと続けているといっていい。「ハツルームにわたしはいない」は芥川賞の候補にもなったが、この選評で宮本輝が「場所と人間が変わっただけで、これまでの氏の作品から一歩二歩と踏み出しているものはないように思われた」と評しているのはある意味象徴的だ。同じく選評で小川洋子は「柴崎さんの書き進む道は一貫している。その迷いのなさは貴重である」と、宮本よりは好意的に評価しているが、柴崎友香らしさなるものを評価するのは難しい。(*3) 内容や質が伴わなければ全体として評価されないのは適切な判断のひとつではあるだろう。

 しかしそれでも、さっき書いたように柴崎友香だからできること、もしかしたら彼女にしかなしえないこと、への評価や期待はあっていいだろうとも思う。同じく2012年に出た『わたしがいなかった街で』のように、いままでの小さな積み重ねの上に書かれた、飛躍的な作品もある。これは長編としての集大成だから、本作『週末カミング』は短編としての柴崎のひとつの集大成なのかもしれない。現に彼女は今年に入って『群像』で連載をはじめた「パノララ」という作品のなかで、いままでとは少し違った試みをしているように見えるからだ。彼女は確実に進化しているのだろうと、思っている。


2013/4/12


*1 楽曲はこちらから→http://www.nicovideo.jp/watch/sm10948305 歌詞の内容はこちらが参考になる。 http://www5.atwiki.jp/hmiku/pages/10203.html

*2 pp221-222

*3 選評はこちらのサイトのページを参考にした。 http://homepage1.nifty.com/naokiaward/akutagawa/senpyo/senpyo143.htm

 

短編集
1.蛙王子とハリウッド 2.ハッピーでニュー 3.つばめの日 4.なみゅぎまの日 5.海沿いの道 6.地上のパーティー 7.ここからは遠い場所 8.ハツルームにわたしはいない)

初版
2012/11(角川書店)

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