暗号 Back-Door


 時の渚から笹本稜平を読み始めたので、本来の書き方はこうなのかあ。と思った。本作を読む限りでは真保裕一のような感じも受ける。話も読みやすい。ただ、コンピュータ用語が多く出てくる上全ての解説までは行っていないからある程度の知識は必要か。まあ、それがシナリオに酷く通じて来るというのもない訳なんだが。それが若干あったとは言え面白い作家を見つけたという感じだ。
 
 コンピュータ会社に勤める石黒悠太は友人の滝本から一枚のディスクを渡される。そして彼はその後変死を遂げた。自殺として処理されたが、そこにあった真意。3日後にメールが送信された来た中に書いてあったのはディスクの中身。それはスーパーコンピュータを駆使しても解読に50年はかかるという暗号ソフト「クロノス」、それを狙う国際組織「ビッグ・ブラザー」の存在。そして接触してくる人間。

 誰が敵か誰が味方か。大学の数学助教授をやっている平木とともに「クロノス」の商品化を実行しようとした悠太に、ジェイク佐伯、警視庁公安の笹崎。元刑事の島野。色んな方向から「クロノス」を手に入れた悠太に接触してくる。読者にしても悠太にしても誰が味方か誰が敵なのか、本当に分からない。それは最後の最後のどんでん返しで明らかになる。

 圧倒的なリアリティ、と文庫巻末に書かれているようにこれは恐れ入った。素直に面白い。テンポもよいからすぐストーリーに浸れる。前にも書いたが真保裕一に似てないこともない。あくまでも本作は、だが。

 まず「クロノス」を狙ってくる「ビッグ・ブラザー」の正体。過去にも謎の変死を遂げた人間の数々。「クロノス」の脅威というか、凄さみたいなのを悠太は感じ取っている。読めば明らかになっていく本当の狙い。そして、佐伯や笹崎の真意。ラストの展開にはそれこそ恐れ入った。前半に滝本の妻であるユリが「パンドラの箱を開けたら取り返しがつかなくなる」と言ったのも伏線だった。ちょっとショッキングでもあるなあ。

 本作の中で「ビッグ・ブラザー」がしたかったことを考えてみると恐ろしい。しかし、それをただのSF物でなく本作は現実に忠実に書いている。だからこそ余計に恐ろしいのだが。
 
 何にしろ作家に負けた。面白い。素直に面白いと言える。『時の渚』もよかったな。作家デビューが遅いのが悔やまれる。それは仕方のないことか。タイトルは文庫のほうが核心をついている。


2004/5/8

長編

初版発行
2000/9(光文社カッパノベルス)
2003/9(光文社文庫)

単行本 名義が「阿由葉稜」
文庫版
「ビッグ・ブラザーを撃て!」に改題

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