GOSICKs 春来たる死神


 今年1月からアニメ化された今現在放送が続いているこのシリーズ、本作も一部が既に映像化されていて、アニメから見て小説に入ったのだが、シリーズ全体を掴むためには読んでいて全然面白かった。ひとえにセシル、アブリル、そしてブロワ刑事といった個性豊かなサブキャラたちが本編以上に生き生きと書かれていることによるだろう。

 外伝ということもあって、シリーズ全体のTipsにまつわるエピソードがおさめられている。そもそも、孤立しているはずのヴィクトリカがなぜ久城と出会うことになったのか。久城はどうしてソヴュールにやってきたのか。なぜアブリルはここまで久城に接近するのか・・・などなど、ミステリ自体には関係ないがシリーズが進む上では押さえておかねばならないところを無難に、いやそれ以上にエンタメ要素も込みで押さえられているのが本作の醍醐味で、読むべき価値があるとすればつまりはそういうことだろう。どこかでまとめられている人物相関図のようなものがあるとして、それだけで済ますにはもったいないよ、ということである。

 特に3,4巻あたりから少しずつ本編に登場する回数が増えたアブリルが本作の重要な核となっているのは、アブリルファンにはもちろんのことだがシリーズ全体が豊かになっていることのあらわれかもしれない。もちろん基本軸は久城とヴィクトリカだが、周りのキャラを上手く巻き込むことで久城とヴィクトリカの関係性が成立し、そこからミステリーとしてのストーリーが作られている、ということが実感できるのである。そしてヴィクトリカというかなり奇特な少女を描写するよりは、アブリルのようなわりとどこにでもいそうな普通の女の子を描写する方が桜庭一樹は長けている気がする。ヴィクトリカのかわいさはどうしても文章として誇張されている気がするので、エンタメとしては面白いが小説の東除塵物としてはアブリルへの描写のほうが等身大で、アブリル自身に対して誠実であるという印象をあらためて受けた。もっともっと本編でもアブリルを書いて欲しいところである(というのは個人的な理由にすぎないが)

 もう一点挙げるとすればヴィクトリカとブロワ警部、そして久城自身との関係だろう。書かれているようであまり書かれてこなかったそれぞれたりの関係、つまりブロワが一方的にヴィクトリカを頼りに来るという関係ではあるが、縁者関係であることは(つまりミステリ本編からそれることは)あまり書かれてこなかった。また、久城とヴィクトリカの邂逅についても、既に当たり前のものとしてシリーズ自体が始まっていたので書かれなかった部分である。そしてほんの少し、目立たないところであんな人が影響を与えていたりするあたり、現実の人間関係のようなリアリティも感じた。全てがきれいにまとまるよりは、人間くささが垣間見えたほうがリアリティという意味では面白い。

 本作で描かれている本筋部分、つまりミステリ部分に関しては、純粋に解くのは少し難しいがシリーズのほうを読んでいればおかしい部分に多々気づく。そうしてシリーズ本編と外伝部分をキャラクター以外でも相互リンクさせることによって、シリーズ自体が地続きであることの面白さを読者の体感を以て醸し出してくれるのである。こうした作品間のリンクや相互乗り入れについては、ミステリーというのはいいジャンルであるかもしれない。伊坂幸太郎が面白い理由も似たようなところにあるのだろう。単にあのキャラが出ている、というだけでなく、あのときあいつはこんなこと言ってたっけ?と別の本を読みながら思いをめくらせる体験というのは、シリーズものを読む面白さの一つだ。

 あらかたもう基本的に押さえておく部分は書いた気がしていて、あとまだ書かれることがあるとするならばヴィクトリカ自身の謎について深めていくくらいだろうか?とは思うものも、この外伝シリーズもあと2冊既に発売されている。シリーズ本編がじょじょに盛り上がって来たので、この外伝シリーズでも何が書かれるかを楽しみに、読書をすることにしよう。


2010/3/4

GOSICKシリーズ外伝

初版
2005/7(富士見ミステリー文庫) ※絶版
2010/3(角川文庫) 

 

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