石ノ目


 最高点でもいい、と言ってしまうとなんか勿体ない気がする。これを読んでも乙一はまだまだ伸びそうだとは実感する。だから敢えて最高点は付けたくないかな。前作がよかっただけに尚更。
 
 どれもこれも珠玉の短編集だ。決して器用ではないのだと思う。オリジナルリティや奇抜さを備えた乙一だが俺はそう思っている。そうではない中でジャンルを違えた4つの短編が収まっている。若いだけにまだまだ可能性はあるし、やはりここで最高点というのはなんとも言えないだろう。器用ではない上手さ、というのは随所に見られた。
 
 最初の表題作「石ノ目」は和風ホラー。「夏と花火と私の死体」チックな怖さも秘めていると思う。見た物は全て石になる。その女が暮らす山に消えた母親を捜す主人公。展開はありきたりなわけだし、結末もそうかと思うとまだまだ甘い。面白く読めたのは確かだが。最後の一文はあるとないで大分違ったかな。
 
 「はじめ」は主人公と友人の木園がでまかせで創り上げた女の子はじめ、という存在が二人の前に現れる。しかし他人には見えない。見えないが噂は広がる。言えば青春小説で後々好評を浴びる切なさものである。これは素直にいただけた。若い故でしか書けないのだろうとも思ったし、ただそれだけじゃない。シナリオも当然存在するし、最後まで優しい。例え朽ち果てても、他人には見えなくても、存在は確かにあった。これも最後の一文が爽やかな余韻を残す。これが乙一の後々の本随だ。器用ではない上手さ、とここで言いたかった。
 
 「BLUE」はぬいぐるみの話。5体がセットで売られていたが、BLUEと称されたいびつなぬいぐるみだけはタダだった。そのぬいぐるみ達が引き起こすトラブル。人間にしてもそうだが、性格が書けているし展開もサスペンスチックだ。シナリオ性は4つを読んだ中ではやや軽薄な感じがしたが。
 
 最後で文庫版では表題作である「平面いぬ。」はこれも奇抜な話。個人的にこれと「はじめ」が良作であとふたつはやや平凡かな、と。犬を左腕に飼ってしまった。しかも動き回ったりほえ回る。時々鬱陶しい存在だが主人公のパートナーとして彼女は犬を見て安心するし、犬も犬で面白い存在だ。ミステリーとは言えないが、全体的にシュールな印象が良作だと思う。 作の中で生と死を見せつけられる主人公。いつか訪れる、だが早すぎる。これと関連づけたのはいただける。もう少しひねりがあれば更によかったか、と思うがそれはまた今後期待することである。
 
 面白いことにはどれも面白いが、確実な成功作と平凡作はある。今だからこそ旧作を読んで現在と比較できるのだが、当時20歳前後でこれを書けたのなら秀逸と言っていいかも知れない。ただし、プロなのだから年齢は関係なく差別なくレビューを書いた。

 乙一の文庫化されている作はこれで全て読んだが、全部読んで改めて言えることは乙一は底を知らない。これでもうネタが尽きただろう、と読者は思うものも寡作だがしっかりと充実性のある作は残してくれる。若さ故、でもある。それはプラスにもマイナスにも作用してくるが。それなりに、乙一に対する期待度は大きいということで。


2004/6/24

短編集(1石ノ目2はじめ3BLUE4平面いぬ。)

初版発行
2000/7(集英社)
2003/6(集英社文庫) ※「平面いぬ。」に改題

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