天帝妖狐


 解説で我孫子武丸が絶賛している。ああ、十分だなあこれは。と満足すると何とも言えない。まだ2作目なのに満足してしまうんだ、恐るべき乙一。
 
 中編が2つ入っている。「A Masked Ball」はトイレの落書きをモチーフにしたものであり、表題作の「天帝妖狐」はこっくりさんと双方とも何かと懐かしみのある方も多いのではないか。

 後者は自分の世代ではやっていなが前者は今でも十分に残り続けてきている。両方ともを経験した方なら酷く思い入れが強いものになるかもしれない。解説では前者を中心に述べていたが後者のほうが個人的には好きだ。後者はそれこそ賛否が分かれそうなのだが。

 前者はトリックに上手にはめられた。後者は完全にホラーだと思うがこれはどちらかといえばサスペンスミステリーというのが妥当だと思う。カタカナの自己矛盾した落書きから始まり主人公含めて5人の落書き合戦。ネタがいいなあ。中身も乙一らしい人の書き方で気に入っている。これはでもまあ、そこそこ恐いな。

 そして個人的に気に入った後者。杏子は道ばたで夜木と名乗る人物を助けるが、顔中包帯で巻かれていた。兄からは嫌われるが一心に夜木の為に頑張る杏子に、夜木は心を開く。杏子と夜木の交互の描写。読めば分かるが時間というものもでてくる。でもこれは特別トリックがあるというわけでもなくミステリーというわけでもない。酷く感情移入できるホラーだったというのが感想。

 夜木というのが謎であり、過去もいびつであるから感情移入のしようは人それぞれかと思ったが。杏子の気になってみれば最後に現れた訪問者はなんだったのかと思うとやけにしんみりさせられる。読後は目を閉じた。本作は単行本版と文庫版では違っているらしいが単行本版を探すのは至難だな。

 どちらも乙一らしい良作が揃っている。これを大学在学時代に書いたのか、やっぱり恐るべし。今はもう先の作も読んでいるが旧作を読んでて思うのは一番恐いのは乙一自身じゃないのか、と。恐るべし。


2004/6/14

中編集(1A Maked Ball-トイレのタバコさんの出現及び消失2天帝妖狐)

初版発行
1998/4(Jump j Books)
2001/7(集英社文庫) ※「天帝妖狐」を先に収録

Back