光と影の誘惑


 貫井徳郎らしい表題作を含めた3編と、藤原伊織のにおいもするコミカルな1編とが収録されている。

 まず「長く孤独な誘拐」だが、不動産会社に勤める森脇のもとに、息子を誘拐したという電話が入る。しかしそれは犯人の本当の狙いを誘拐する為のステップにすぎなかった。4編の中では一番ぺージ数が長い。長いとは言うも、シナリオ自体はあっさりしている。しかしながらラストは仰天物。こういう世の中なのだろうとも思ってみる。TBSで近々ドラマ放映があるようなので、そちらも見ておきたい。

 他の3編とはやや違った「二十四話の目撃者」に注目してみたい。アメリカを舞台とした保険会社の従業員が主人公で、その顧客が動物園で死んでいた。作られてしまった密室の中、どうやって殺したかの謎を主人公は探偵気取りで解いていく。すんなりいくのはマンネリだというのも分かっているし、雰囲気が爽やかであるから、非常に読みやすい。藤原伊織も匂うが、これはこれで貫井徳郎なのだというのは、トリックが証明している。

 表題作「光と影の誘惑」は、競馬場で出会ってしまった2人が現金強奪を狙うことに。それ自体は平凡なネタであり、とんでもないのはそのあとなのだ。基本的に2人の視点で交互に繰り返されており、意図が分かりやすい。そのラストなのだが、衝撃に違いない。

 ラストは「我が母の教えたまいし歌」という謎めいたタイトル。母の死に直面した皓一は、30年前の父のしを思い出す。そのとき偶然知った、不確かに存在していた姉の正体を探ることになる。複雑にもつれさせながらラストはキッチリ持ってくるあたりは彼らしいシナリオ構成。固定観念は場合によっては控えるべき、かな。個人的に一番好きであった。

 叙述物を大いに楽しむならばお薦めするし、それで飽きる人の為に「二十四話の目撃者」もあるから面白い。


2004/1/18

短編集(1.長く孤独な誘拐2.二十四話の目撃者3.光と影の誘惑4.母の教えたまいし歌)

初版発行
1998/8(集英社)
2002/1(集英社文庫)

Back