夜の蝉


 私シリーズで書かれる短編にはそれぞれテーマがあるんだろうな、って思った。シリーズ最新作『朝霧』は出版であるし、本作はやはり女性なのだろうか。正ちゃん、江美ちゃん、そして姉の3人に連ねた短編がそれぞれ1つずつ3作が収められている。デビュー作と比較するとちょっとミステリーらいくなってきたかな、とも思う。

 なんだかんだ。私シリーズにしても時シリーズにしても北村の作風はオリジナリティに満ちている。『スキップ』はまだ読みやすかったと言えるか。まあ、まだあんまり読んでない俺がどうこう言うのも癪かもしれないが、周りからの評価と自分が抱く感想は異なってくるものだ。要は、万人向けかと言われれば飲み込みにくい人もいると思う。だが私シリーズ3作目に入ってようやく受け入れられてきた気はする。俺は。

 最初の「朧夜の月」は正ちゃんが出てくる。人物造形から言って面白い。ユニークだ、とは毎回思わせる。それは「秋の花」で見える正ちゃんも同じ。バイトしている本屋での話。ちょっと本作は受け入れられにくいかな、と思いつつ。

 「六月の花嫁」はタイトルで分かると思うがジューンブライドに連ねて。と言っても単調な恋愛物じゃなくて一番ミステリ色が濃くて、一番すっきりした作だったと思う。この読後感の爽快さはいただける。こういうのを北村は書けるんだな、と再確認する作となった。クイーンがなくてはチェスは出来ない、か。個人としてチェスは詳しくないのが惜しいかも知れない。それでも読めるけど。

 さて表題作「夜の蝉」は構成がよい。シナリオの持って行き方からして別に奇抜というわけではないのだが姉と私のやりとりには情が入ってしまった。他の2作とは若干趣向が違うのが本作。うんうん、と頷きながら一気に読み終えた。

 基本的にいただけるかな。ちょっとしんどいかなあ、という部分もあったが北村らしさは失われていないのでファンにはお薦めできる。表題作以外は相変わらずスローテンポでゆったりさせてくれる作品集だ。それが失われてしまったら駄目だよな。


2004/7/6

連作短編集(1朧夜の月2六月の花嫁3夜の蝉)

初版発行
1990/1(東京創元社 創元ミステリ'90)
1996/2(創元推理文庫)

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