玉蘭


 面白おかしく。幽霊から始まったのは苦笑したが、読後と印象は違う。読後感は爽快だった。
 
 広野有子は全てを捨て、日本から上海に留学した。まずまずの業績を残し夜会社を辞め、元恋人だった松村行生に別れの手紙を送り、日本人寮に住んだ。そして表れた幽霊は大叔父の質。70年前同じ上海での質と浪子の想いが現代を通して交錯する。対照的な男女の織りなすミステリチックでもある恋愛小説。

 桐野夏生と言えば彼女らしい。終わり方が何とも中途半端な小説(有子と行生は決着していない)だからでもあるし、玉蘭という本作の重要なポイントは最後まで貫いている。有子にとってそれは眩しすぎた。質と浪子にとっては、自分たちの花とでも言うのか。それが70年後質の幽霊を出現させるきっかけにもなったのだろうが。

 読み終わっても分からないであやふやな点が多い。おそらく故意だろうし、ミステリーというミステリーでもないから中途半端な終わり方は別にルール違反でもない。故意ならそれはそれで作風である。

 単行本版は、文庫版の後書きによると第六章の行生の内面描写で終わったらしい。文庫版はエピローグ的なものとして質が日本に帰っての事を書いている。文庫の方がいいだろうな。このエピローグ的な内容がないと終わりにくいだろう。中途半端とは言ってもこの終わり方なら納得は行く。だからこそ読後感は爽快だった。

 有子の意思が分かりにくいかな。主人公は、いないに等しいかな。有子と質と言っても無理はないけれど、4人それぞれがそのまま動くのがストーリーの流れ。特に目立った人物は必要ない。4人が書ければいいと言った感じかな。
 
 前作「光源」も異色だったように本作も桐野夏生と踏まえれば異色だ。しかし本作は楽しかった気もする。前者はダラダラとつまらなかったが、本作は違うように思えた。


2004/5/21

長編

初版発行
2001/2(朝日新聞社)
2004/2(朝日文庫)
2005/6(文春文庫)

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