オーデュボンの祈り


 始まって20ページほど読んでから殆どページをめくる手が止まらず、僅か一日で読み干してしまった。

 主人公の伊藤は弾みからしてしまったコンビニ強盗、しかも失敗に終わり中学時代の同級生だった、今は警官の城山に殴られる始末。しかし目覚めると知らない島にいた。そこは150年間外との交流を断った仙台の北の「荻島」だった。自分はマシな方だという日比野、地面に伏せて音を聞く若葉、悪事を起こした者のみを銃殺する桜など、風変わりな住民の他に、未来が見えて喋るカカシ。その謎に満ちた島で、カカシが殺されてしまう。何故殺されたのかが根本のテーマになるが、伊藤を追う、警察の城山との二元ミステリーになる。二元と言っても殆どは荻島での方なのだが。

 読み始めたのが昼で、夜7時になる頃には本書を読み終えてしまった。それくらいスピーディーで個性のある登場人物が魅力。それ故最後のほうまではとにかく伏線のオンパレード。そう言う丁寧さと読みやすさは東野圭吾に似てないこともない。しかし伊坂幸太郎は独特の世界を創り上げている。

 デビュー作にしてはなんと緻密な展開なのだろう。丁寧な伏線とストーリー構成。驚かされるのは寧ろラスト数十ページなのだが、読んでいて飽きない。前にも書いたが、個性豊かな登場人物達と、都会からはかけ離れた風景を想像させる。

 あくまでも現実。全て現実。変えようのない。誰かが死ぬことも、誰かが生まれることも、伊藤だって荻島に来ることも、カカシには何もかも分かっていた。しかしながらそれで耐えるしかない不条理な世界。ややヒントになったかもしれないが、カカシだってそれなりではあると言うことか。勿論フィクションでしかないが、不条理すぎる現実は存在するし、心を打たれ、目を背けたいような世界が存在している。しかしながら喜びもあれば幸せもある。両方が現実であるのだと、事実であるのだと、事実は受け入れなければならないのだと。

 桜というストイックで自分に背かないキャラは好きだ。それ以前に未だ読んだことのないストーリー。文句を付けるとしたらこれも丁寧すぎるくらいに読点があることか(笑)。ラストは微妙だったかもしれない。エピローグは欲しかったか。いやはやデビュー作でこの出来は言うまでもなく優秀。


2004/1/17

長編

初版発行
2000/12(新潮ミステリー倶楽部)
2003/11(新潮文庫)

(2000)第5回新潮ミステリー倶楽部賞受賞

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