秘密


 秘密、という気になって仕方ないようなタイトル。怒濤の前半。「予感めいたものなど、何一つなかった」の一言からもうこの小説は読むのをやめられないとも思った。

 主人公の杉本平介にしたら怒濤と衝撃だっただろう。読者もそうだ。スキーバスの事故による妻の死亡、娘の最悪の状況。そういう展開から始まったのでストーリーに一気に引き込まれてしまった。自分は学生なので「自分自身」の家庭はない。家庭を持っている人とは価値観が違うかもしれない。広末涼子の言葉を借りれば「長いおつきあいになる小説」というところか。それでもある程度の平介の気持ちは分かる。怒濤の展開で始まったことによって普通より感情移入しやすかったそのせいもあるし、形だけの妻となってしまった直子に何もしてやれない感じは切なくて淋しすぎる。娘の藻奈美を失った悲しみもそれに等しい。

 直子は別な形で人生をリセットしようと試みる。とは言え最初の方は困難な日々が続く。それは考えたら分かる。リアルで色んな意味でその部分は面白かったが。それでも更に困難をというのはでてくる。当然と言えば当然。フィクションでしか起こりえない状況ではあるが、上手に処理できている。部分的にせこい箇所もあるといえばあるけど。

 平介は事故の原因も探るようになってくる。これにはやや理解できない点が多いのは気のせいだろうか。人がいいということだろうかどうだろうか。被害者なのだから、などと思うとやや無理がある気もした。

 そしてラストだ。ラストは、ややスッキリしすぎていないか。東野圭吾がちょっとせこくも見えてきてしまった。タイトルの「秘密」の真意はこれなのかと思うと最後まで楽しませてくれたけど。総合的に見て良作であることは言うまでもない。ミステリよりは寧ろ夫婦、家族愛を象徴している作品である。人によって価値観が違うが、純粋に読めば絶品だ。


2003/12/11

長編

初版発行
1998/9(文藝春秋)
2001/5(文春文庫)

(1999)第52回日本推理作家協会賞受賞

Back