空色ヒッチハイカー


 帯にポップでクールな青春小説とある通り、爽快でスピーディーで、ありふれているようでありふれていないドライブが楽しい小説。高校生らしい悩みを抱えながら、目指すべき場所に向かって寄り道しながらも進んでいく。軽さもあるのだろうけど章ごとの小さな仕掛けも楽しめて、一気に読める小説。テンポのいい音楽を聴きながら読むのに最適だろう。

 秋津彰二は受験生の夏休みに夏期講習から逃亡して旅に出た。一字違いの兄の免許証を携え、川崎から佐賀の唐津を目指す。相棒はオートマのキャデラック、相方は初日に拾ったヒッチハイカーでツンデレ気味な年上の女性、杏子。旅の中で多くの人との出会いを経験し、心揺さぶられ、傷つけたり自ら傷つきもする。そして自分の人生と尊敬する兄との人生を振り返りながら、背伸びをしようともがく18歳の夏。橋本紡のあたたかな文章がさえわたる。

 初日から偶然一緒になる杏子という人物がなかなかにくせ者である。青春小説を彩るヒロインでありながら、当然のように彰二をふりまわし続ける年上女性でもあり、口には出さないまでも内に秘めたものを持っていそうな女性である。彼女のキャラクターもそうだし、彼女との一週間の関係性なしではここまで充実した小説ではなかっただろう。青春小説に恋愛の要素は当然のように欠かせないが、はっきりと明言した恋愛関係でなくどっちつかずのミステリアスさを杏子に持たせているところも。ストーリーとして魅力的である。

 18歳という大人でも子どもでもない微妙な年齢の主人公を配置し、そこに四日目のような未経験の男女関係を持ち込むことで、18歳である彰二を等身大に表現することに成功している。キャデラックに乗る老人との交流や吃音の男性との交流も魅力的なエピソードであるが、18歳の等身大性を演出するにはやや方向性が異なる。杏子という魅力的な女性を登場させながら、彼女に嫉妬をさせるような他の女性キャラクターを登場させる演出は杏子の存在を際だたせる意味でも効果的であると思う。

 そんな杏子とともに一週間を一日ごとに区切って毎日違う出会いを通じて成長する、というのが基本的なコンセプト。それ自体は典型的だが、毎日の小さな出会いや小ネタを挟みながらの小さな仕掛けは単純に面白くてそれこそ読み始めたら一気に一日分は読めてしまう。旅をするのはただ人や風景と出会うだけでなく、そのことから何かをかみしめていくことだ、と。そういうコンセプトがはっきりしていて、少しずつ僕と杏子の関係がゆるやかになっていくのも見物。はなれたり、はなれなかったりの繰り返しは疑似恋愛のようでもある。このあたりの若い男女の機微を書く橋本のタッチは個人的に気に入っている。

 そして当然そのような展開が繰り返されるだけでなく、後半からは本作のメインである彰二と兄との関係について焦点が少しずつ移っていく。一週間の出会いと兄との関係に関連性はないけど、彰二の目線は常に兄の方向を向いている。『流れ星が消えないうちに』でも見られた家族と自分との関係性、が一つのテーマとしてうきあがってくる。今回は家族としての兄という関係と、自分の最大目標である兄との対面の関係が書かれているわけだが、おそらく彰二が進路選択という意味以上に前へ進むための通過儀礼として兄を最後に用意したのだろう。兄と出会って何をつかんだのか。最初から最後までシリアスとは無縁な、気楽な旅だなあというのを実感させるラストではある。面白い、としか言えない。

 息をつきたいときに読みたい一冊。主人公のように現実逃避する感覚で、何か別の方向にベクトルを向けるのは悪いことじゃない。目の前の大事なことはあるとしても、逃げることで見えてくるものもあるということも旅の醍醐味だし、本作のテーマのひとつだろう。

 ドライブ中にはさすがに読めないが、電車やバスの中、また旅の途中のお供には最適です。俺みたいに危うく乗り過ごさないように読むのがいいんじゃないかな。


2009/9/27

長編

初版発行
2006/12(新潮社)
2009/8(新潮文庫)

Back