終戦のローレライ


 2003年最後に読んだ本書がその年のマイベストになった。『亡国のイージス』の世界観(実質的にやや異なるが)よりも、『川の深さは』の人間性の巧さをも上回りかねない。個人的にだが。

 深海という閉ざされた空間で、戦利潜水艦「伊507」はドイツの秘密兵器PsMBI(ペーエスエムビーアインツ)通称「ローレライ」を回収しに行くことになる。その節を若干17歳で上等工作兵として「伊507」に乗り込んだ折笠征人の視点でストーリーが繰り広げられる。

 感じは『亡国のイージス』のような海洋冒険小説。相変わらずの大スケールだし、今回は実話を元にしているのだから創作もなかなか困難だっただろうが前作を遙かに上回る重量感となっている。上巻は取りあえず「ローレライ」の回収と真相。小説中の折笠の切ない想いのそれがこの小説にも通じるのだろうか。そういう風にして福井晴敏は淡々と戦争反対を訴えている。前作と違い実話に基づいていることでより一層深みを増した書であるから違った読み方が出来る。上巻は重たかったが、下巻は殆ど一気に読んでしまったイメージがある。それなりに時間こそかかったがいかに読み応えのあるものかは実際読んでみて自分自身で実感して欲しい。

 読み終わって、これほどの小説は初めて読んだ。勿論自分がまだまだそんなに年月を重ねていないかもしれないが、完成度と言い、登場人物に対しての感情移入と言い。小説の中にも随所に引用されているが、島崎藤村の「椰子の実」が妙にしっくりくる。ここは涙までがでてきそうになった。しかし誰もが最後までその役目を果たしたことの充実感を得ている。何よりも感じがいい。それに後日談として終章が加わり、小説の終焉とともに更に爽快な読後感も得られる。戦争をモチーフにした小説にしてはいい意味でできすぎている。

 どうしても高村薫とダブるところが福井晴敏にはある。細かい描写、人一人にしても着実に書き上げ、ストーリーの中で人間ドラマを演出する。決定的な違いはテーマなのだろうけど。福井晴敏にはそれらからでてくる迫力と緊迫感がある。その福井流のオリジナリティが非常に好きだ。

 ラストシーンは印象に残りすぎる。この表現は何にも出せない。今まで読み進めていたからこそ、無情や失望と言ったもの全てに感情移入させてくれる。まあそれは俺自身の個人的な感情もあるのだろうが。最後まで読み進めることが出来ればそれなりの読後感を残してくれる小説ではある、と付け加えておく。如何せん長いので。長さが、これまたいいんだろうけどな。後日談は綺麗すぎた。この対比が、ある種いいのかもしれないな。読後感というか読後はぱたりと本を閉じた。残った物が多い、それをゆっくり吟味して欲しいから、出来るだけ時間のあるときに読んで欲しい小説。

 本作は第24回吉川英治文学新人賞、2004年版このミスで2位、2005年には映画化も決定した。映画の方は役所広司、妻夫木聡主演らしいが、おそらく役所は絹見艦長で、妻夫木は折笠なのだろう。ストーリーの重要な鍵を握る日系ドイツ人のパウラ役も決まったようだ。キャストと言うよりはできあがりに期待したい。


2004/1/7

長編

初版発行
2002/12(講談社 上・下)
2005/1(講談社文庫 @・A)
2005/2(講談社文庫 B・C)

(2002)第21回日本冒険小説協会賞受賞
(2003)第24回吉川英治文学新人賞受賞

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