亡国のイージス


 日本推理作家協会賞を含む3賞を受賞した大スケールで描く海洋小説。文庫化された上巻だが、長い割にすんなり読めたと思う。前作でありデビュー作にあたる『Twleve Y.O.』から続いている部分もある。本作を読む前に読んでおきたい。どうせなばら『川の深さは』」も。

 まず 読み終わって、福井晴敏は泣かせ屋だなあと思う。シナリオに泣かされると言うよりは寧ろ人に泣かされてしまうんだが。小説だから描ける、と言うのかもしれないが。序章で3人の主要人物にふれた後は「いそかぜ」のクルーの人間を描くことにあてている。欠かしてはならない前ふりの場所。まずはスローペースで描かれているが、福井小説特有か飽きさせず、結構スムーズに読めたように思う。他の小説と違うところは主要人物だけでなく、大いにわたって人物描写をしているところ。護衛艦だけあってその人数も多い故かもしれないが、1人1人が的確に描かれており、非常に感情移入もしやすい。護衛艦の中の仙石と行。乗っ取っているホ・ヨンファと宮津達工作員といそかぜ幹部達。ダイスの渥美。他瀬戸や総理大臣の梶本などの敵味方問わない視点から見ているのが面白い。焦点が違ってくる分のよさがでている。ストーリー上そうしなければならないところもあるが、乗組員達が反発し合う様子。渥美や瀬戸達の食い違ってくる意見とそれぞれが見せる展開があり、ただ仙石と行の悪戦苦闘を書くだけじゃ物足りない作者の見せ所じゃないか。

 描写も秀逸で、死ぬところの描写は非常に苦しいかもしれない。あっけなく殺してしまわず、最期までを鮮明に描いているのが本作の特徴か。心理描写も巧いし、人物描写をする中で仙石と行は上手に仕上がっている。戦争を描く話なのだが、しんみり読ませてくれる。そういう感じも十分堪能できる。仙石の心理描写にはそれが強い物があり、圧倒的不利になったときの絶望もまた。

 テーマは相変わらず壮大で、今回は海上自衛隊だが、似たような作品と思わないで欲しい。それに読みにくさはない。殆どお世話にならない場所でもカバーしつつ書けていると思う。何か、何かをこの小説で大きく訴えてきているものがある。アメリカの援護なしでは苦しい日本。そういう弱点をテーマと掲げる。誰の言葉にも説得力があるが、誰が正しく誰が正しくないか、自分はどうか。よくよく考えられる物に仕上がっている。

  決してこの小説はワンサイドで終わらせてくれない。ミステリ的てはないかもしれないがよりリアリティを求めてそうなってきたのかもしれない。依然と不利な状況が続いていく。故か、ヒートアップすると読む目がとまらなくなる。仙石の「日本人をなめるなっ!」という台詞には、それでも負けるわけにはいかない、先任伍長として、死んでいったクルー達の為にも、と言いたいのだろう。展開をワンサイドにしなかったことでより一層、特に仙石には感情移入がしやすかったように思う。意地の強さはなんとなく「川の深さは」の桃山に似ている。こういう人間像は男が見てもやはりカッコいい。

 「川の深さは」「Twelve Y.O.」とそしてこの「亡国のイージス」の3部作は福井晴敏を語る為には欠かせない。登場人物が似ているだかの批判はあるがそう言う輩は無視していればいい。俺はこの3部作が非常に好きである。


2003/12/1

長編

初版発行
1999/8(講談社)
2002/7(講談社文庫 上・下)

(2000)第2回大藪晴彦賞受賞
(2000)第18回日本冒険小説協会賞大賞受賞
(2000)第53回本推理作家協会賞受賞

Back