雪が降る


 殆ど純粋な気持ちで読めた。『テロリストのパラソル』で見せたような味も随所でちゃんとでている。それがありがたかったしそれ以外のも面白いじゃないか。色んな藤原伊織を楽しめると思う。
 
 「紅の樹」や「銀の塩」はハードボイルドだ。「紅の樹」は元ヤクザで塗装士が主人公。新たな生活地で見つけた生活の中、再びヤクザと関わり合うことに。田島舞という少女が出てくるのだが、彼女がいて初めてストーリーが完成するのではと思う。不条理なラストは、泣けてきそうなほどだった。「銀の塩」は「テロリストのパラソル」の島村が登場する。だがこの話はショヘルという人物が主人公。そのショヘルの短い恋愛小説である。ショヘルの国の現状と日本に来た理由。島村の平和さを羨む様子が刻々と書かれている。世界は広いと実感。感情には国境はないようだが、ラストは淋しいかな。表題作「雪が降る」も恋愛調に仕上がっている。主人公の悲しい物語だ。胸を打たれるシーンは多いはず。
 
 「台風」や「ダリアの夏」は似た感じに書かれている。台風は会社員の吉井卓也が主人公。部下が傷害事件を起こしてしまうことで昔のことを思い出す。少年時代の卓也の家のビリヤード場に毎日の如く訪れる客と主人公との交流。酔っぱらいの客や女子高生のアルバイトなど周りの層も濃い仕上がりだ。甘くもあり優しくもある雰囲気からラストは急変して。「ダリアの夏」は30をすぎてもフリーターでやっている主人公と配達先で知り合った篠崎由利と孝志という野球少年。自分自身も過去に野球をやっていた経験、そして夢をたたれた経験から少年をみつめるようになってくる。両方ともテーマは「夢」だ。結末は全く違う2編であるが雰囲気は柔らかいので読みやすいと思う。
 
 「トマト」という一幕劇のショートストーリーでは藤原伊織が思いっきり遊んでいる。ひょんな事で人魚に出会い、トマトの案内人を任されてしまう。トマトがテーマであってなんでもないのだが面白かった。ユーモアセンスが大いにでていると思う。

 全体的に、藤原伊織の入門には丁度いいだろうと思う。


2003/12/7

短編集
(1台風2雪が降る3銀の塩4トマト5紅の樹6ダリアの夏)

初版発行
1998/6(講談社)
2001/6(講談社文庫)

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